川上先生の部屋 ~地すべりのお話~

第4回 土石流は渓床勾配3度で止まる

土石流が勾配3度の渓床で停止することは、経験的事実として良く知られている。この事は、逆にいえば3度以上の渓流はすべて土石流の危険性を秘めているということである。よって過去に土石流の発生記録がないからといって安心はできない。
 土石流が発生するには、崩壊土砂が30度~20度の渓流に流れ込み、渓流の水と混合し土石流となる「斜面崩壊型」、渓流の水が渓床を浸食しそれが徐々に拡大して土石流となる「渓床浸食型」、斜面崩壊による土砂が渓流をせき止め貯水池を作り、その後一挙に崩壊して土石流となる「自然ダム崩壊型」のみっつの型がある。この3者のうち、大部分は「斜面崩壊型」で8割ほどを占め、残りが「自然ダム崩壊型」と考えている。「渓床浸食型」はまれに生ずるものと考えられ、筆者はまだこの発生現場を見たことがない。
 2006年7月の集中豪雨により、長野県岡谷・諏訪地方は多大の被害を受けている。なかでも岡谷市湊3丁目は小田井沢川を流下してきた土石流により7人の死者を出す災害をうけた。土石流が停止した場所は、住宅が密集している集落の上流部で、全壊5戸の他、住宅の一部を破壊された家が多い。小田井沢川上流の崩壊は数百m3 と小規模のものであり、その他の河川の土石流発生源の崩壊も、 1万m3 以下である。これは崩壊発生地の地質が塩嶺類層の角礫凝灰岩で風化深度が浅く、地質がしっかりしていた影響であろう。過去の災害は、規模の小さい蒲原沢(1996)で 3万m3、宇原川(1981)で13万m3 であり、規模の大きいものでは、御岳(1984)の3300万m3 というものもある。湊3丁目の集落付近の沢の勾配は 6度であり、いつ土石流が集落を走り抜けてもおかしくない場所である。もし土石流の規模がもう少し大きかったら、もっと大きな被害となっていたかもしれない。こうして勾配3度以上の渓流部では、過去の災害履歴がなくとも、常に土石流の危険性を抱えていることを忘れてはならない。

Page Top